【無名人インタビュー３】ブラック企業で働いていたけど、気付いたら文学青年からケモナー筋トレおじさんに転生していた

でも、そんな状況の、不能者の俺でも本当に心の底から興奮できるものがあって、それがケモノだったんです。マジでケモノ同人誌でならエレクチオンできたんですよ！これは一杯のかけそば級の美談だと思うんだけど、残念ながらこの話をツイッターでする度にフォロワーが５人とか１０人とか減るのが現実です。

 

 

———そんな話だったっけ、一杯のかけそばって。それにしても大学時代はそんなに動物好きだとは思ってなかったけど…

 

いや、少年時代から「しましまとらのしまじろう」や「銀牙—流れ星　銀」などが大好きだったし、ファイナルファンタジー７ではレッド１３を使っていたんだけど（編集部注：この後、「ぼくのおもいでのシコいどうぶつキャラ」の話が延々３０分以上続きましたが、健全な本サイト読者にお目にかけるに忍びないので省略します）
それで、エリアーデという学者によれば、太古、馬は宇宙と同一視されていたんだけど…

 

 

———もういいから話を戻してください。

 

じゃあ話を戻すと、私の通院していた病院は何年か前、診療報酬の水増し請求が発覚して廃院したそうです。

 

———ひどい話！

 

それで、そんな生活してると、たまの休日になんか気晴らしでもしようと思っても、仕事のことが頭にこびりついて何も楽しくないんだよね。「怒られたらどうしよう」「失敗したらどうしよう」この不安がすべての思考と行動を呪縛する。正直、今でもこの時期、どんなことを生き甲斐にしていたかさっぱり思い出せない。脳みそに靄がかかったかのようになってしまう。当時の日記を見ても、それこそ「こいつ、どんだけ気の毒な人生送ってるんだよ」と泣いてしまう。それを薬で誤魔化していたわけだ。

 

———辛い話ですね…

 

そんな風にもう生きるか死ぬかの瀬戸際の生活をしていた時期に東日本大震災が発生したんだよね。あのすさまじい状況を見て「ああ、この人たちの代わりに俺が死ねばよかった」とつぶやいた時、自分の考えがどれほど死者を冒涜しているかに気付き、自分で自分をおぞましいと思った。それで、もうこんな生活をしちゃいけない、「生きたくても生きることができなかった人がたくさんいるのだから、生きることができるなら、できるだけ生きねば」と考え、辞めることにしたわけよ。あまりにも鬼気迫る様子で退職願を出したんで、問題なく認めて貰いました。

 

———僕も生きていて良かったと心から思うよ。

 

ありがとう。

 

———でも、辞めてからの生活はどうしていたの？

 

失業保険、最高だよ！何しろ寝てるだけで口座に金が入ってくるんだから！おかげで昼まで寝ていても構わないし、一日中図書館で文学全集読んでてもいいし、散歩で寺社仏閣を回りまくってもいいし、とにかく人生ってこんなに楽しかったのかと。花や星を見て美しいと感じる心をこの時ようやく思い出した。働かないから腹減らないんで一日一食でよく、失業保険で十分食っていけるからね。

 

———ちなみに失業保険は就職活動を継続的にしていないと支給されません。寝てるだけでというのはＫさんの大袈裟な表現ですのでご注意下さいね。

 

まあそうだね。それに自己都合で辞めた場合は最初の３か月は支給が無いので、貯金はゼロ円になりました。あ、日本学生支援機構からの奨学金という名の借金が２００万円あったけど、それはちゃんと無職になったと同時に猶予申請しました。奨学金を抱えてる人が退職した場合これだけはすぐにやった方がいい。

 

———それで不安や焦燥感はなかったの？

 

一切なかったね。だって「Ｊ」で働いてた時より苦しいことなんて世の中そうそうないもん。どう転んでも未来は「まだまし」になる以外なかったから。精神状態がみるみるうちに良くなっていったのは我ながら驚いたよ。うつ病になる原因は千差万別だけど、結局のところ最大の要因を取り除くのが一番の特効薬ですね。仕事を辞めるのは何よりの向精神薬。まあ減薬は徐々にしていって、寛解できたのは２０１４年だ。

 

———その２０１４年に、ようやく痩せることができたというわけだね。いきなり大学時代に戻ったかのようなシルエットになっていたのでビビったよ。

 

 

７０日間で２０キロ痩せるという離れ業をこなした記録は「ケモナーダイエット」という同人誌にまとめたので詳しくはその辺りを参照いただきたいのですが、要点は「一日の摂取カロリーを５００キロカロリー以下に抑える」「ものすごく腹が減って辛いが、そこは脳内に拵えた獣人に励ましてもらって乗り切る」という２つですね。ジョギングなんかはあくまで補助。人間はカロリー減らすのが一番痩せる。

 

 

 

 

 

 

———普通の人は脳内に獣人はいないので、無茶振りだね。

 

で、痩せてからは筋肉つけようと思って、まめにジムに通うようになって、すっかり筋トレ中年おじさんになったよ。筋トレするようになってから、夏にタンクトップで外出するのがとても楽しくてね…ちなみにケモナー界隈ではデブのほうがモテるという風潮があるんですが、あれは大嘘ですね。痩せて筋トレするようになってからの方がお座敷かかること格段に増えたし。

 

 

 

 

 

———ケモナーのオフパコ情報と中年の筋トレ情報ほどこの世に不要な情報はないのでそろそろ〆ていただけると…

 

〆るも何も別にオチのある話ではないけど、まあ人間、生きてる方が死ぬよりマシだよ、とりわけ仕事のことで悩むくらいなら仕事なんかやめた方がいいよ、とは言えるかな。「ああ、自分のようなものでも、どうかして生きたい」って思ってみるといいよ。

 

———『春』だね。

 

そう、透谷の姿を見ていた藤村だからこそ書けた言葉だよ。文学ってのはやっぱり凄いね。

 

 

＊＊＊

 

インタビューとしては以上です。いかがでしょうか。

ブラック企業での紆余曲折を話を聞く企画でも最後は「文学ってのはやっぱり凄いね」で〆てしまうあたり、文学青年の根っこは変わらないんでしょうね。

私からはまとめのかわりに良い言葉を紹介して当記事の結びとさせていただきます。

 

 

 

大部分の人たちが行く道は楽だが、僕たちの道は苦しい。——でも、行こうじゃないか。

（ヘルマン・ヘッセ『デミアン』より）