実録!ネクラバイト体験記〜交通量調査編〜

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ケアムーラ
東京在住。18平米のワンルームでぬいぐるみと30人暮らし。自分のことは嫌いだけど自分語りは大好き!

お世話になっております。

本日は私が大学生の時に体験した「交通量調査」のバイトの体験記をお届けします。
皆様は交通量調査にどのような印象をお持ちでしょうか?私は最初「とにかく楽そう。退屈の辛さはあるかも」と思っておりました。
果たしてその実態は・・・?






Chapter1 〜アルバイト掲示板〜

6月。私は大学構内の「アルバイト掲示板」の前で悩んでいました。その名の通り、大学生向けのバイト募集の紙が貼られた掲示板です。

当時私が通っていた大学は田舎町にあり、バイトの働き口はほとんどありませんでした。電車で一時間かけてやや栄えた駅まで行くか、夏休みや冬休みの長期休みに帰省して短期バイトをするかといった感じで、選択肢は非常に少なかったです。

そんな環境でさらに6月というバイトには半端な季節に「交通量調査の調査員募集」という案件を発見しました。

一日だけの単発で、7時〜19時までの間に交代で8時間労働、日給7000円。業務内容は「国道沿いのポイントで専用の器具を使って交通量を調査していただきます」というものでした。ネクラで人とコミニュケーションをとることの苦手な私にとっては、うってつけの仕事だと思いました。退屈かもしれないけど楽そうだし、真夏・真冬でもないので体の負担も少なさそう。

さっそく電話して申し込むか、と思ったものの、その用紙に違和感を感じました。アルバイト掲示板に貼ってある募集の紙の連絡先が、090から始まる携帯番号に、「田中」とだけ書いてありました。他の募集はほとんどが「○○株式会社」とか「○○スーパー」とか「○○飯店」等の企業名でした。なんかあやしいなぁ・・・と思い、一旦保留しました。

他の掲示物に目を移すと、近くにまた「交通量調査の調査員募集」というものがありました。全く同じ一日の単発バイトで労働時間も7時〜19時で同じ、業務内容も同じでした。ただしこちらは日給が12000円で、連絡先が「○○株式会社」という企業名でした。これはどういうことだろう?と二十歳の頭で悩みました。

普通、労働時間と業務内容が全く同じなら7000円より12000円を選びますよね。そして連絡先に携帯電話番号を載せている個人名のところよりは、固定電話番号を載せている企業名のところの方が安心できそうですよね。というわけで普通に考えると、ここは12000円で募集してる方を選びますよね・・・

しかし思いました。これって、「ひっかけ問題」なのでは??こんなに分かりやすく条件が違うのって、逆にあやしい。裏をかいて個人名のところにした方が良いのでは・・・?さあ、アルバイト掲示板の前で心理戦の始まりです。

深読みをします。例えばこれが夏・冬の交通量調査が12000円で、春・秋が7000円なら納得できます。しかし今回は同じ日。大変さに差は無いはずです。7000円の方はパイプ椅子に座っての調査だけど12000円の方はフカフカのソファーとか?いやいや、ソファーに座って交通量調査してる人なんて見たことありません。企業よりも個人の方が親切に仕事を教えてくれる?うーん、交通量調査のバイトで研修があるとも思えない。このあからさまな条件の差はなんなんだ。同じ交通量調査、どう考えても12000円の企業が募集してる方に応募した方が良さそう。でも世の中そんな単純じゃない。うまい話にはきっと裏がある。どっちを選ぶべきか・・・深読みすべきか・・・

さんざん悩みましたが、結局12000円の企業の方を選びました。個人の方で働いた場合の7000円との差額5000円は、大学生の自分にとっては大きいものでした。自分が企業の方を選んで多少辛い思いに遭ったとしても、その辛さに5000円の価値は無いと決めました。そうしないと前に進めなかったのです。私には、お金が必要でした。






Chapter2 〜当日、前半戦〜

交通量調査の当日、朝5時半。私は待ち合わせ場所で迎えの車を待っていました。7時〜19時の拘束時間でそのうち8時間労働と募集の紙には書いてありましたが、現場まで車で1時間強かかるとのことでした。騙された。5時半〜20時半の15時間拘束じゃないか!

しかしそういった時に「そんなの書いてなかったじゃないですか。働くのやめます」と言える性格と預金残高ではありませんでした。憤然としながらも、迎えに来た車に乗り込みました。

私の他に同じ大学と思われる男性が1人、女性が1人いました。よろしくお願いします・・・と軽い挨拶の後はお互い無言。その移動中の車の中で、業務内容のレクチャーがありました。専用の器具を使って、車種ごとに車を数えていくというもの。わずか1分で終了。企業が募集している方に応募したのに、結構適当というか、雑だな・・・と少し不安になりました。

途中、コンビニに寄りました。「仕事中のトイレは、近くにあるドラッグストアの使わせてもらえばいいんだけど、10時の開店までは使えないから今行っとくといいよ」とのこと。不安は大きくなりました。

現場である国道沿いの交差点に到着。3人で、2時間仕事・1時間休憩のサイクルの割り振りをします。私は初っ端から休憩でした。近くには開店前のドラッグストアしかなく、休む場所もありません。

結局3脚並んで置いたパイプ椅子に他の2人と一緒に座ります。他の2人がカチカチと押すのを1時間横で見ているという、予想だにしなかったいきなりの退屈。車で連れてきてくれた監督者のような人は会社に戻っていったので、今日が初対面の3人の学生のみ。

2019年の現在だったらスマホでネットフリックスでも見て時間を潰すところですが、当時はそんなものも無いので、結局、自己紹介から始まる無難なトークが始まりました。

「これすぐに飽きるやつですね」

「12時間耐えられる気がしないです」

「ドラッグストアに昼ご飯になるものって何か売ってますかね・・・」

「他に店が無いか10時過ぎたらちょっと歩いてみますよ」

等の現状についての話から、所属している学科やサークル、出身県、最近やったバイト・・・人見知りなので多少のストレスはありましたが、楽っちゃ楽です。

私以外の2人とも普通の見た目で普通の性格なのは救いでした。明らかな異常者と12時間並んで座ってるとかだったらきついですしね・・・

そして退屈な1時間が終わり、私が交通量をカウントする順番が来ました。車の車種ごとに違うカウンターを押していきます。まる一時間指をくわえて見ていたので押したくてしょうがなかったのですが、最初の5台くらいで飽きました。

6月ながらも晴れており、次第に気温も上がり蒸し暑くなってきました。帽子を持ってきたので直射日光は防げたものの、こりゃ午後暑くて大変かもと不安になってきました。午後どころか昼前から大変になるんですけどね。

2時間の退屈を世間話でやり過ごし、待ちに待った10時の休憩がやってきました。ようやく開店したドラッグストアに入り、トイレに行って、飲料や食品を買います。昼ご飯になるようなものは無かったのでカロリーメイト的なものを選びました。少し辺りを散歩してみるものの、他にお店は何もありませんでした。落胆と後悔を抱え、休憩時間の多くを残して2人のもとへ戻りました。






Chapter3 〜当日、後半戦〜

2時間労働・1時間休憩を2セット終え、後半戦に入りました。蒸し暑い晴天で道路からの照り返しもきつく、静かな地獄の様相となってきました。

退屈でありながらも喋る気力が無くなり、3人並んで無の表情で時間の経過を待ちます。人生経験と思って耐え忍びます。日差しが和らぐことを祈りながら、後悔と自省の時間です。

12000円のため、12000円のため・・・と言い聞かせつつ、7000円で募集していた「田中」さんの交通量調査のことを考えます。同じ田舎の県なので、あちらも同じように国道沿いで調査しているとしたら、時間を潰せるような気の利いたお店はあまりないはず。同じように蒸し暑くてきつい時間を過ごしているはず。同じ大変さで5000円も違うことの合理的な理由が思い浮かびません。

そしてこれは盛った話のようで書くか迷ったのですが、そんなことをぼんやりと考えてる最中に目の前で交通事故が起きました。私達が座っている箇所の斜向かいの位置で車2台の接触事故。1台はそのままガードレールに衝突しました。

一歩間違えば自分達の座っているパイプ椅子に直撃していたと思うとゾッとしました。「もうやめだやめだ!俺は帰るぞ!」と、死亡フラグが立った映画の登場人物のような心境です。

その後も蒸し暑さと照り返しでぐったりしながら、あと5時間・・・あと4時間55分・・・あと4時間50分・・・と何度も腕時計を見て、事故に遭う怖さも加わり、それはそれはヘビーな半日を過ごしました。車が通るたびに押す手元のカウンターも、軽自動車は3番目なのに4番目を押してしまったり。

そして、退屈さゆえの居眠り。根が真面目なので起きていようと努力するのですが、一方で、「こんな劣悪な環境で真面目に働けるわけない」と諦める気持ちも出てきます。まあ一度寝てしまうとダメですね。これまで正確に数えてきたものが、寝たことによりひとたびカウントの完璧さを失うと一気にやる気がなくなりました。毎日ジョギングをしていたけど一日休んだら続かなくなってしまう、みたいな。

あと休憩時間ごとにドラッグストアを一周する虚しさ。なかなか普通に生きていても味わえない感情がわいてきますよ。店員さんも、1時間ごとに入れ替わりで店内を一周する3人の客を見てどう思ったでしょうね。

住んでいる町から車で1時間強の、駅やバス停がどこかも分からない田舎の国道沿い。とにかく逃げ場が無い。19時に迎えに来る○○株式会社の人を待ちわびるだけの忍耐の時間でした。「もう二度とやらない」と何百回口にしたことでしょう。

多少なりとも気温が低ければ思索の時間にもなったでしょうが、蒸し暑く、車が突っ込んでくるかもというストレスの中でそれは難しいものでした。同僚の男性が急に「あーっダリーッ!!」と叫んでカウンター器具を縦横無尽にカチカチカチカチカチカチ!と何十回も連打しました。交通量調査中に目の前で交通事故を目撃するというレアな体験をしましたが、それよりも、この「普通の人間が急に発狂する瞬間」の方が興味深かったです。






Chapter4 〜闘いの果てに〜

19時。長い長い一日がようやく終わりました。迎えに来た人がドラッグストアの駐車場から歩いてくるのを見て、カウンターを投げつけたくなりました。出所当日の朝に看守を殴って刑期が延びる囚人もこういう気持ちなのでしょうか。

車に乗り込み、「いやー今日は暑くて大変だったよね」と言われ、「もう二度とやりません」と答えました。

そういえば先日私は人間ドックで内視鏡検査(胃カメラ)をしてきたのですが、めちゃくちゃ辛くて嘔吐反射も止まらずボロボロに泣き、終わった後で医師にこの時と同じように「もう二度とやりません」と言いました。

辛かったことは辛かったときっぱり伝えないと、次の被害者を生んでしまいます。

聖書に「一粒の麦、地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん。もし死なば、多くの実を結ぶべし。」という言葉があります。この日の日焼けは長く残ったものの、いつしか消えてしまいました。こうやって記事の形にして世に残し、安易なバイト選びへの警鐘となれば幸いです。



ちなみに帰りの車の中で〇〇株式会社の人に「全く同じ内容の交通量調査のバイトが大学の掲示板に貼ってあって、そっちは田中さんっていう個人が雇い主で日給7000円だったんですが」と言ってみたところ・・・

皆様も搾取されないように気をつけましょう。




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