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お世話になっております。
皆様は読書していますか?
私は最近はほとんどしておりません。生活に追われ仕事に圧迫され心に余裕が無く、昔読んだものの再読くらいしかできていない状況です。新規で頭に物語を入れるということが、もう、無理になりました。あとは擦り減って摩耗していくだけです。
さて、そんな貧しい状況の私の心にも深く残っている作品があります。
ドストエフスキーの『貧しき人びと』です。
作者自体は有名ですね。日本でもドスト・F・スキ雄のペンネームで活躍し、後の漫画業界に大きな影響を与えました。
この『貧しき人びと』は1846年に出版された、ドストエフスキー24歳の時のデビュー作です。原稿を読んだ編集者があまりの名作っぷりに感動・興奮し、早朝にドストエフスキーの家まで行って彼を叩き起こし「君はスゲーよ!」と喝采したというエピソードがあります。
これがどのような作品かについては以下の通りです。
・さえないおじさんと薄幸な少女の、手紙のやりとり形式の物語
・二人とも貧しく、近所に住み、日用品やお菓子を送りあうなどして助け合っている
・物語のラスト、少女は生活のために金持ちの家に嫁ぐことになる(ネタバレにつき反転)
二人を取り巻く、貧しくも心温まり、しかしやはり貧しく厳しい日常が、胸を打つ筆致で描かれています。何度泣いたことか。いくつかのシーンを思い出すだけで、胸をかきむしりたくなります。
最近、何気なしにこれを再読していたのですが、気になる表現がありました。
プロの乞食。
ここは、『通りに乞食の少年がいて、貧しい母親に頼まれて物乞いをしているようでかわいそうだった。一方で、世の中にはすっかり乞食の生活に慣れたプロの乞食もいる』といった場面です。
ですが、どうも疲れていると、物語の筋とか主題とか、頭に入らないんですよね。単語だけが心に引っかかりました。
「プロの乞食」という言い回しが面白いと思いませんか?よく聞くプロ市民ならぬ、プロ乞食・・・。この『貧しき人びと』は訳者違いで何冊か出ていますが、他はどう訳されているのでしょうか?調査いたします。
というわけで、違う訳者のものを集めてみました。訳された時代も結構違います。私が今回読んだ2010年訳の「プロの乞食」の箇所を見ていきましょう。
【1970年 旺文社文庫 北垣信行訳】
「古狸の乞食」
【1968年 新潮文庫 木村浩訳】
「職業的な乞食」
【1959年 岩波文庫 原久一郎訳】
「生え抜きの乞食」
【1949年 角川文庫 井上満訳】
「職業的な乞食」
【1935年 三笠書房 外村史郎訳】
「商売にやっている乞食」
表にしてまとめてみましょう。
同じ乞食でも、様々な訳し方がありますね・・・!
私は「古狸の乞食」が好きです。この中では「古狸」だけがそれ自体でネガティブな印象を与える単語ですね。
「プロ」という言葉は、「ある物事を職業として行い、それで生計を立てている人」という意味合いのため、「職業的」「商売にやっている」と同じカテゴリーですね。
また、「生え抜き」は「生粋の」とか「初めからそこに所属している人」という意味で、古狸ともプロともニュアンスは異なりますね。
よって、訳者は6人ですが意味は3グループに分けられます。
・古狸
・職業
・生え抜き
さあ、この物語のここの文脈での、乞食に対する形容を訳したものとして最も適したものはどれでしょうか?
・・・ということをロシア文学科の人は毎日毎晩議論しているんだろうなぁと思うと、羨ましくてしょうがないですね!
ちなみに英訳版はどうなっているのでしょうか?
苦労して英訳版を入手しました。POOR(貧しい)FOLK(人々)。
苦労して該当箇所を探し出しました。
a beggar by profession.
beggarが「乞食」、professionは「職業」。
邦訳でのプロの乞食・職業的な乞食のカテゴリですね。
さてここからが本番です。
元々のロシア語版を探してみましょう・・・探さなきゃだめですよね・・・!
ロシア語はアルファベット自体が私たちの知っている見た目ではないこともあり、非常に難航することが予想されます。
まずGoogleで「貧しき人びと ロシア語」で検索。
ウィキペディアが一番上に出てきて、早々に「Бедные люди」という原書のロシア語表記が判明します。
それをAmazonで検索。
あっという間に原書が見つかりました。
昔の超有名作家だけあってkindleで無料。なんて便利な時代だ・・・
さっそくダウンロードして開きます。
本文を開いたところで一文字たりとも理解できないため、Googleの翻訳で「乞食」のロシア語表記を探します。
Нищий だそうです。読めない。
ですが、今の時代、読めなくてもコピペさえできれば探し物は見つかります。
kindleの本文検索でНищийを探します。
6箇所ヒットしました。少なくて良かった・・・。日本語訳版でも、乞食という単語はこの「プロの乞食」の箇所が最後に出てくる場面ですので、6箇所目のロケーションを開き、そのページのНищийのあたりの文章を選択して翻訳にかけます。
出ました。このスクリーンショット下部の青いマーカーを引いた箇所ですが、それよりもここを直訳したやつがウケると思いませんか?
「工芸品の老舗の乞食」
日本語訳の、
・古狸
・職業
・生え抜き
でいうと、老舗はどのカテゴリーでしょうかね・・・?
以上のように、古本数冊を買うお金とインターネットに接続できる端末さえあれば、それなりの時間を楽しめます。貧しくても幸せですね!
それでは最後におまけとして、【ドストエフスキーあるある】を一つご紹介します。
1巻で挫折してブックオフに売る人多すぎ!!