【街中フォント】NEXT修悦体!? 都営大江戸線〝春日体〟に注目する

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赤祖父(赤ソファ)
青ソファ、黄ソファ、赤ソファの三色からなる「徳ソファ」から分離したうちの一人。三人がふたたび一人に戻るとき、大勝利が待っているという。

ハイエナズクラブをご覧の皆さまの多くは、一度は「修悦体」なるものの存在を聞いたことはあるかもしれない。

佐藤修悦さんという方が開発(?)した、ガムテープで即興的に作られた独自のオリジナルフォントのことである。

Nippori-station912.jpg
By MayunoMayuno, GFDL, https://ja.wikipedia.org/w/index.php?curid=1336116

ネットでは2005年くらいから徐々に注目度が高まり、サブカル系、アート系などに引っ張りだこになった時期があった。その後もたまに工事現場などで見かけることはあるが、サブカル界隈は上っ面だけ触ってすぐ飽きる軽薄なやつが多い次の流行探しに敏感なので最近は特に目立ったとりあげ方はされていない。佐藤さんもまた以前のようにどこかの現場で頑張っているのかもしれない。

……と、そんな前フリを踏まえつつ、こちらの写真をご覧頂きたい。

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この壁面にジカに貼られて東京ドームのご案内をしているお手製フォントに思わず目を奪われた。

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近付いてよく見てみるとテープで作られていて、発想としては修悦体と同じだ。もともと修悦体も、既成の案内標識などだけでは迷ってしまう人が多発することを見かねて「現場を知っている人だからこその案内」「現場にあるものを利用しての案内」といった工夫から生まれた。その意味でも、修悦体のDNA的なものが感じられないだろうか。

(別に弟子とかそういう意味ではない)

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どうやって加工しているのか今ひとつわからなかったが、黒背景に白抜きという表現も可能にしている。

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「ド」の濁点はまん丸に切り取られている。かわいい。

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東京の「東」の時は意外に複雑な重ね張りの感じが見て取れる。ベースとなるテープの太さの兼ね合いもあるのだろうが、真ん中の部分、このような図形の組合せである必要があるのだろうか?

ところで、このオリジナルの案内テープが貼られているのはタイトル通り、都営大江戸線の春日駅だ。

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春日駅はこのように都営三田線、南北線、大江戸線が入り混じる結構な乗り換え駅だ。さらには東京メトロ丸ノ内線の後楽園駅も地下で繋がっており別名ながらも実質同じ駅のような感覚で乗り換えに使うことができる。そして、東京ドームシティ、ラクーアやWINSといった施設の最寄り駅でもあるため、通常の通勤等では使っていない不慣れな人が訪れるケースもきっと多いのだろうと推察できる。

便宜上、このオリジナル案内の字体を修悦体にならい〝春日体〟と仮に呼ぶことにする。作っている人の名前がわかるのであればその名前をお借りすべきだろうが、現時点では春日駅で見かけ、春日駅でしか見たことが無いのでそう呼ぶ。

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こちらは別の通路。修悦体のような具体的な特徴があるわけではないが、この〝春日体〟の作者も間違いなく同一人物だろう。

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こちらもまた〝春日体〟での案内。文字の太さも統一されていないのだが、代わりに漢字を省略せず正確に表現しようとする意気込みも感じられる。適度なデフォルメや省略の美があった修悦体とはここが異なる。犯行声明みたいだとか言わないように。

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アルファベット・記号にも対応。黒背景に白抜きのローマ字はどこかiOSっぽくてモダンである。

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Tの拡大。台紙のような部分から切り取っているというのが見て取れる。

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こちらは三田線乗り換えのほうを案内している。三田線の「線」の時だけ細い。

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よくよく見ると、下書きの跡?も。こういう人間臭さが見え隠れするのはたまらない。

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居てもたってもいられず、駅長さんに〝春日体〟についてお話を伺った。

(写真はありません)

赤祖父「そこらへんに貼ってあるオリジナルの案内についてなんですけど……」

駅長「ああ、あれね、あれはうちの駅員がやってます」

赤祖父「その方は春日駅に勤務なのですか?」

駅長「はい、そうですね」

赤祖父「(じゃあ、春日駅でしか見られないから〝春日体〟でも良いかも…)今、その方いらっしゃいますか?」

駅長「今日はいないと思いますね」

赤祖父「ウッ残念です……しかしなぜあのような取り組みを?」

駅長「やっぱりね、わかりにくいんですよ駅の造りが。更に改良工事なんかもやってるから一層ね。で、たまたま得意な駅員が始めて、今あんな風になっています」

赤祖父「とても見やすくて良いと思います! 具体的にはあのテープはマスキングテープですか?」

駅長「あれはね、製本テープなんですよ。いいですよ製本テープは。丈夫だし剥がれないし」

赤祖父「ほほう、製本!ちょっと意外です」

駅長「ほら、うちの駅のカベってあんな感じ(タイルでボコボコしたりしている)でしょう。だから紙とかより良く付くんです」

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↑駅長さんのいうところの「あんな感じ」。確かにA4に印刷した紙とかだとすぐ剥がれてしまうのかもしれない。

赤祖父「大江戸線の駅ってちょっと各駅で凝ったカベしたりしてますからね……」

駅長「うん、製本テープですね。良いですよ、製本テープは……。とにかく製本テープです」

と最後はやたら製本テープを推しまくってきた駅長さん。(ありがとうございました!)

まとめると、〝春日体〟には以下のような特徴があると言える。

【〝春日体〟(仮)の特徴】

・大江戸線春日駅勤務のとある駅員さんが作成する

・曲線の表現はしないが、唯一カタカナの濁点と中黒はマルで良い

・ローマ字のみの場合は白抜き文字を使う

・製本テープを使う

・とにかく製本テープが良い

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上のExcelで作ってポスター印刷したような貼り紙と比べると、やはり〝春日体〟のほうが全然目立つ。

修悦体のようなひと目でわかるような具体的なオリジナリティはまだ獲得していないが、どんどん独自の進化をしていく可能性も十分考えられる。なぜかと言えばそれはつまり案内サイン、すなわち駅の利用者のためを思って作られた、現場ならではの「生きている」フォントだからである。

というわけで通勤通学で大江戸線春日駅をご利用の方はこの〝春日体〟に是非注目してみてほしい。なぜなら私は滅多に春日駅を使わないからです。他力本願でごめんなさい。どうぞよろしくお願いいたします。