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■出会い
唐突ですみませんが、東京都渋谷区の某ラブホテルのエントランスが、めちゃくちゃにアヒルでデコられていることをご存知だろうか。
すごいね。
たしか渋谷直角さんの本で『ラブホテルは撮影などすると色々とヤバくて、撮影許可をもらいにいったらすごく怖い目にあった』みたいな話を読んだ気がするので詳しい場所や名前は伏せるが、近くにライブハウスやクラブが沢山あるのでパリピの皆様はホテルに用がなくても『ああ、あのホテルね』となるかもしれない。
ツイッターでも『アヒル ラブホ』で検索するとほとんどここしか出てこないのでおそらく日本全国こんなことをしているのはここくらいなのだろう。このかわいいアヒルちゃんに関して、ある日とんでもない情報が某情報筋(Twitter)から飛び込んできた。
『朝5時にこれを並べに来る店とは関係無いおっさんがいるらしい』というのである。夜明けの渋谷に現れてアヒルを並べて颯爽と去って行くおっさんがいるとか、そんなことってあるんだ。てっきりホテルのスタッフの方がやってるのかと思ってた。いちおう誰から聞いたのか問い合わせたところ『友達から聞いてその友達も友達から聞いた』とのことなので、まあそういう噂が一部にあるにはあるようだ。
たまたまいつも渋谷駅から職場まで歩いて出勤していて、少し回り道をしたら立ち寄れる場所だったので、わざわざ朝5時じゃなくても並べてるところに遭遇できないかとしばらく朝晩ホテルの前を通ってみた。冒頭の2枚の写真はその1日目の夜だ。
これは2015年7月1日(水)の朝の様子。なんと半年前の話なのである。
だいたい朝9時ごろに通ったが、あまり整列されている様子はない。むしろちょっと落とされているっぽい。
その日の夜。だいたい23時頃だが、変化にお気づきだろうか?
ちょっと崩れているが、文字っぽく並べられているように見える。遊び心なのか。
加えて、右端が微妙に修正されている。この修正はかなり『きれいに並べ直そう』としている感がある。毎朝5時じゃなくても並べるおっさんは活動しているのだろうか? というか1日目から2日目の推移で『もしかしたらある程度残ってたらそんなに並べたりしてないのかもしれない』とは思っていたので…、
悪いな…と思いつつ一部を池に落としてしまった。
悪いな…と思いつつすごく気持ちがよかった。
そして翌朝である。
この時点で興奮がすごかった。
ばっちりやんけ…
おっさんごめん、でもありがとうという気持ち。こんなにきれいな状態を見たのは初めてだったので知らなかったが、整然と並んでいるアヒルちゃんたちを見ただけで『今日はなんか、すごくイイな!』だった。
なのにその夜がこれだよ。
ありえない…という絶望と同時に、しかし昨夜の自分も規模は違えど同じことをしたのだと強く後悔した。ごめんよおっさん、頼むもう一度並べにきてくれ!もう一度アヒルちゃんたちを蘇らせてくれ…!
もっと落ちてた。ギリギリ手が届きそうな範囲までぜんぶ落とされてた。ここからしばらく若干立て直してはボコボコにされる冬の時代がやってくる。
というか土日に入って人通りが増えたためか、積極的な攻撃に加えてあからさまにアヒルちゃんの量が減っている(左が土曜日、右が日曜日)。ようやく体制を立て直したのは翌週7月7日(火)の朝だった。
9日(木)、このころハイエナズクラブのメンバー、藤原さん(藤原 麻里菜 @togenkyoo)から連絡が来る。
張り込みのご提案。確かに二週間近く通って会えないならそれくらいしないと会えないだろう。
というわけで藤原さんとは現地で待ち合わせて深夜から張り込むことになった。
その夜のアヒルちゃんがこれ。先週からの定番コース『整列→全滅』。しかもパッと見てわかるほど数が激減していてすごく無惨。
万一おっさんが気まぐれで早めに来てしまうのを恐れて1時ごろからスタンバイ。
めちゃくちゃ暇だったのでぼのぼのスペシャルを買ったけど一瞬で読み終わってしまった。
■アヒルのラブホ、張り込み開始
2時ごろ藤原さんがきた。チャリで来た。そして風邪をひいていた。
藤原さんはよしもとクリエイティブエージェンシーに所属しているマジのお笑い芸人で、無駄なものを発明する動画をアップし続けているYouTuberでもある。到着するやいなや、
藤原:わりとこのへんでバイトしてる先輩が多いんですけど、この話したら『そんなの聞いたことないし見た事もない』って言ってましたよ。
というイヤな情報を提供されていきなりすごい暗雲が立ち籠める。
おもわず酒に逃げるわたし。
でもトイレとかに行っているあいだに決定的瞬間を逃すことがない安心感があってすごく心強かった。夜一人でラブホテルをジッと見ているところを絡まれたり職務質問とかされたら最悪だったのでほんとに来てもらってよかった。職務質問は後日一人で写真を撮ってるときにされた。
近くのクラブに怒鳴り込んできたやつがいて警察がめちゃくちゃきたり、クラブ帰りの露出の多い女の人とかを眺めているうちに空が明るくなっていき、あっという間に5時になってしまった。
途中何度か寝具の交換業者さんなどが道を行き交い、『もしかして出入りの業者さんのサービスなのではないか』『あの自転車に乗っているおっさんが怪しいのではないか』といちいち緊張したものの業者さんは業者さんだったし自転車のオッサンは通り過ぎるのみであった。
『たぶんもう来ないけど、始発まで時間あるしギリギリまでみとこう』と諦めきれずもたもたと帰り支度をしていた本当にそのときだった。
奥からのそりと従業員らしき人がホテルの前のパイロンを片付けに出てきて、あれ、もしかしてあの人並べるんじゃないすか?まさか?まさか?と思っていたら、
並べた…!!
増田:あの…すいません…
お兄さん:はい?
増田:突然すいません、お兄さんがいつもこれを並べていらっしゃるんですか?
お兄さん:えっ、いや、ここ(ホテル)のスタッフがそれぞれヒマなときにやってる感じですね…
増田:そうなんですか!?朝5時にホテルとは関係ないおっさんがこのアヒルを並べてるって話があって、それを見てみたいなって思って実は昨日の深夜から張り込んでいたんですよ…!
お兄さん:ええ…? あ、でもそこ(池の前)に監視カメラあってふだんはそれ見ているんですけど、確かに知らない人が並べてるときありますね。酔っぱらった人とかが。でも決まった時間に同じ人が並べてるとかはないですね。
完全にガセってわけでもなかった。ホテルと関係ないおっさんが並べているところにたまたま居合わせた人がいたところから二転三転したのかもしれない。しかしもう噂がどうとかはもはやどうでもいい。追いかけ続けた人物が目の前にいる興奮のほうがすごかった。
増田:あの…僕、毎朝ここの前通っていていつもこのアヒルのこと見ていて…僕もこれ並べてみていいすか…?
お兄さん:えっ?ああ、まあ、いいですけど…?
増田:やった!
スタッフ:水はちょっと、あんまりきれいなやつじゃないので気を付けてくださいね。
一緒にアヒルを並べながらあれこれ気になっていたことを伺ってみた。そしてこんないきなり現れて興奮してるわけわからん奴に付き合ってぜんぶにニコニコ答えてくれるスタッフのお兄さん。優しい…。そういうわけでこのアヒルちゃんに関して教えて頂いたことをいくつかご紹介!世界初!
増田:このアヒルはいつからこうやって並べているんでしょうか?
お兄さん:去年からですね、この池ができたのが去年なので。最初はぜんぶこの水に浮かべていたんですよ。それが二ヶ月くらいして並べろと指示があって。なんかこう、偉い人から笑 それが従業員のあいだでなんとなくヒマつぶしとして続いています。文字っぽくしてみたり。なんていうか、仕事の合間のちょっとした癒しってかんじですかね…。
ヒマつぶし!しかしホテルのスタッフさんがやっていたことがわかった今となってはそりゃそうだろうという感じである。忙しいときは当然やらないこともあるそうだ。つまり、毎週かなりきれいに並んでいた水曜夜から木曜の朝は相当ヒマということになる。いらん知識!すてき!そして癒し!見ている側にエンタテイメントを提供するのみならず、並べる側にまでアヒルちゃんは安らぎを与えているなんて…。
増田:こんなふうに並べていて盗まれたりしないんですか?それとも、盗まれてもいいように例えばホテルで使用済み(こちらのホテルには風呂に浮かべて遊ぶアヒルをレンタルできるオプションがある)のものを使っているとか…
お兄さん:盗まれますね(笑) 使用済みとかはないです、これはこれで『並べる用のアヒル』をホテルで貸し出しているものとは別に用意しているんです。減ってきたらまた発注して、みたいな。
基本的にはホテルのお客さんがちょっとした記念?に持って帰っても大丈夫くらいのやつとのことなので、調子こいてめちゃくちゃ盗んだりするのはやめよう!
増田:やはり並べるこだわりとかあったりするんでしょうか? 友達が『色違いのアヒルを入れたら後日直されてた』と言っていたのですが…。
お兄さん:僕はそんなこだわりとかないですが…ああでも、僕はこういうふうに並べないですね。
お兄さん:こうやってぎっちり並べます。
お兄さん:色違いとかはちょっとわかりませんが、いっときアヒルと一緒にカメを並べていた時期はありますね。なくなってしまいましたが笑
並べ方があるのはこだわりなのでは…?
あとで奥からケータイを持って来て、それを並べたときのの写メを見せてもらった。その写真を撮っていてすぐに出てくるのは完全にこだわりなのでは…? 愛なのでは…? ともあれぎっちり並んでいるところを見たらこのお兄さんのシゴトということである。
増田:このアヒルのこと、インターネットでブログというか…記事にしても大丈夫ですか?
お兄さん:ああ、いいですよ笑
ありがとうございます!
徹夜明けのおかしなテンションだったので、途中あまりにすごいすごいやばいやばい言い過ぎて「ちょっとバカにしてません…?」と誤解されかけるなどあったが、撮りまくったアヒルちゃんのフォルダを見せたら「まさか見ている人がいるとは…」と驚かれ、なぜか「いやあ、なんかありがとうございます」とまで言われてしまった。こんなことってあるかよ。
そうこうしているうちにこの日完成したのがこちら。右側のほうがわたし、左側がお兄さん。コラボレーション!左右で密度が違うのがなんとなくわかるだろうか。これがお兄さんのこだわりである。
増田:どうもありがとうございました!また今後もカメとかなにかすごいのとかが見られるのを楽しみにしています!
お兄さん:わかりました、じゃあそのうちすごいのを笑
ちなみに一旦家に帰ってもう一度行ってみたら、去ったとこからさらに手が加えられていた。
このあとわたしが所属しているバンドのフェス出演など地方遠征や仕事が重なったり、なんだかうだうだして『記事にしていいすか!?』とか聞いておいて記事にしないでいるうちにずいぶん時間が経ってしまったのだが、その間この日を境にして明らかにアヒルちゃんたちの様子が変わってきたのである。